オーナー企業に転職するには、いくつかの課題を理解し、準備しておくことが重要です。実際、日本国内の企業の約95%はオーナー企業であり、その多くが同族企業とされています。特に上場企業の約半数以上が同族企業という統計からも、日本が世界的に見ても同族企業の多い国であることがわかります。
私自身、これまでにオーナー企業での勤務経験があり、その際に得た教訓からも、転職先として選ぶ際には一定の知識と覚悟が求められることを強く感じました。しかし、オーナー企業には課題だけでなく、独自の利点も存在します。ここでは、オーナー企業におけるメリットとデメリットについて、詳しく説明します。
オーナー企業とは何か?
オーナー企業とは、次のような経営者層が主導権を握っている企業を指します。
- 創業者
- 創業者の親族
- 親族の後継者
- 大株主である個人
これらの権力者は通常、社長や会長、あるいは相談役といった役職に就き、経営の最前線に立つことが多いです。オーナー企業は同族企業とほぼ同義であり、同族企業もまたネガティブに見られることがあります。これは、企業のオーナーが社長自らであるため、雇われ社長ではなく、企業そのものを持っている点に特徴があります。ただし、表立って見えない場合も少なくありません。
オーナー企業の課題
オーナー企業に転職する際の課題は、オーナーの意向が絶対であること
オーナー企業では、オーナーの権力が非常に強く、その決定に逆らうことが難しい点が課題です。特に社長の意向がそのまま会社の方針となり、従業員はその方針に従わざるを得ません。企業の株式を所有するオーナーは、その企業に対して絶大な決定権を持ち、役員の任命や会社の進む方向も彼らの意向次第です。私が勤めた企業でも、オーナーに反対することは事実上不可能でした。このような環境で、オーナーの意向に対して違和感を持つ人も多く、特に社長に気に入られない場合、どれだけ会社に貢献しても昇進や昇給の機会を逃すことがあります。場合によっては解雇のリスクすら存在し、大企業であれば許されるような上層部への不満も、オーナー企業では厳禁です。オーナー社長はしばしば自分の意見が絶対だと信じており、その考えに基づいて経営が進められるため、従業員にとっては非常に息苦しい環境になることもあります。失敗してもその責任を負うのはオーナー自身であり、この点がオーナー企業の特有の難しさと言えるでしょう。
オーナー企業では親族以外が出世しづらいという課題
オーナー企業において、社長や上層部に昇進することは非常に難しい場合が多いです。多くのケースで後継者は創業者の親族であり、代々同じ家系から社長が選ばれることがよく見られます。企業によっては、役員の大半が親族で占められている場合もあり、そういった状況では親族以外の人が上に立つことはほとんどありません。入社前に会社の概要を確認することが重要です。親族以外が昇進するチャンスが限られている点は、オーナー企業で働く上での大きな課題の一つです。
オーナー企業では不合理な決定に耐える必要があること
オーナー企業では、しばしば朝決まった方針が夕方には変わるといった、経営の方向性が頻繁に変更されることがあります。企業の意思決定はオーナー経営者の判断に強く依存し、幹部の意見が反映される前に、社長が独断で方針を決めることが一般的です。特に人事面では、社長の判断によって突然の変更が行われることもあり、理不尽に感じる決定に直面することもあります。そのため、オーナー企業で働く際には、こうした不合理な状況にも対応できる覚悟が必要です。
オーナー企業における独特な習慣やイベントが課題であること
オーナー企業には、他の企業では見られない独特の文化やイベントが存在することがあり、これが転職時の課題となります。
部長が一列に並んで叱責を受ける儀式
ある企業では、部長全員がオーナー社長に報告を行う行事が定期的に行われていました。その際、部長たちは順番待ちの列に並び、長い間待たされた挙句、社長に叱られる場面が繰り返されます。このような場面に直面すると、会社の運営が正常でないように感じることもあるでしょう。
オーナー社長がセミナーから戻ると仕事が中断
あるオーナー社長はセミナーを好み、外出から戻ると全社員に召集がかかり、その日の業務がすべて中断してしまいます。社長のセミナー報告が始まり、従業員はそれに付き合わされることが日常的でした。
無意味な営業会議
毎週行われる営業会議では、従業員が準備を整えて臨むにもかかわらず、実際にはオーナー社長による長時間の説教がメインとなり、会議本来の目的が果たされることはほとんどありません。会議のたびに立たされて叱られるのが常態化しており、特に大企業出身者はこのような習慣に驚かされることが多いです。
これらの独特な習慣やイベントは、オーナー企業で働く際に適応すべき課題の一つです。
オーナー企業における会社資金の私物化のリスク
オーナー企業では、会社の資金がしばしばオーナーの私的なものと混同されることが多く、これが一つの課題となります。例えば、オーナーが経費に対して厳しい一方で、節税対策として無駄に見える出費を行うこともあり、社員にはその基準が理解しにくい場合があります。また、会社の利益が、実際には働かない親族の役員に流れていくこともよくあります。これらはすべて、オーナーが自分の利益を最優先するためであり、公私の区別がつきにくい状況を生み出します。こうした経営手法が、従業員にとって不満の種となることが多いのです。
オーナー企業では社員が育ちにくい環境が課題
オーナー企業では、経営の意思決定がすべてオーナー社長に集中してしまい、社員が自主的に成長する機会が少なくなりがちです。社長の指示に従うだけの「イエスマン」が増え、自分で考えて行動する文化が育たなくなることが一般的です。また、社員たちは社長のご機嫌伺いや忖度を優先し、真の業務に集中できなくなる場合もあります。こうした状況が続くと、企業全体が長期的に成長するのが難しくなってしまいます。
社長交代による企業文化の変化がリスクとなること
オーナー企業では、創業者が高齢化し、後継者に社長が交代することがよくあります。特に、二代目や三代目への交代が起こる際、企業の業績や風土が大きく変わるリスクがあります。新社長が手を打っても時すでに遅く、企業が倒産の危機に陥ることも珍しくありません。さらに、旧体制の幹部が変化に対応できず、組織が硬直化しているケースもあります。こうした状況に気を配りながら、オーナー企業への転職を検討することが重要です。
オーナー企業にはデメリットもあるが、メリットも存在する
オーナー企業に転職するメリットは高い経営意識
オーナー企業の社長は、常に会社の経営を考え、その成功に強い意識を持っています。特に創業者は、経営への深い情熱と責任感を持っていることが多く、後継者にもその精神が引き継がれることが一般的です。例えば、トヨタ自動車のような企業がその典型例です。優れたオーナー社長がいる場合、強力なリーダーシップを発揮し、企業を力強く牽引していきます。これに対して、雇われ社長は社内外のしがらみによって大胆な決断が難しいことがあります。例えば、ソフトバンクグループの孫正義氏や、ファーストリテイリングの柳井正氏のような創業者が、企業の成長において大きな役割を果たしてきました。大きな決断が必要な場面では、オーナー社長のリーダーシップが非常に重要です。
意思決定が迅速であることがオーナー企業のメリット
オーナー企業では、意思決定がスムーズかつ迅速に行われることが多いです。社長の判断で物事が決まるため、煩雑な合意形成や調整に時間を費やすことなく、新しいアイデアやプロジェクトが次々と進められます。これにより、トライアンドエラーを繰り返しながら、マーケットに素早く対応できる柔軟性が生まれます。
経営者を間近で見られることがオーナー企業の利点
オーナー企業で働くことの大きな利点の一つは、経営者の姿を間近で見ることができる点です。特に成功しているオーナー社長の考え方や行動を直接学べる機会があり、これはサラリーマン社長がいる企業では得られにくい経験です。経営者マインドを身近に感じられることは、将来的に自分のキャリアにとっても大きな財産となります。
中長期的な視野での経営が可能であること
オーナー社長には任期がなく、長期的な視点で会社を運営できることがメリットです。サラリーマン社長の場合、短期間の業績を重視せざるを得ないため、長期的なリスクや大きな経営判断を後回しにする傾向がありますが、オーナー企業ではその必要がありません。オーナー社長は、自社の未来を見据えた経営を行うことができ、これが企業の持続的な成長を支えます。
オーナー社長に認められれば飛躍的な昇進の可能性がある
オーナー企業では、オーナー社長に認められると、通常の企業では考えられないほどのスピードで昇進することが可能です。実際に企業に大きな貢献をし、オーナーから信頼を得ることができれば、飛び級での昇進も現実的です。ただし、場合によっては、忖度や忠誠心が昇進のカギになることもあります。
オーナー企業の規模によって異なるデメリット
中小企業におけるオーナー企業の特徴
中小企業のオーナー企業では、社長と社員の距離が非常に近くなりがちです。このため、社長の評価や人間関係が直接仕事の評価に反映されることが多く、場合によっては社長から直接叱責を受けることもあります。また、社長があらゆる業務に関与しているため、社長不在では企業の存続が難しいという状況も見られます。最終的に、働きやすさは社長との相性次第となることが多いです。
中堅企業におけるオーナー企業の特徴
中堅企業は中小企業よりも大きく、大企業には及ばない規模の企業です。ここでは、オーナー社長との距離は中小企業ほど近くないものの、依然としてオーナーの影響力が強いです。部署が分かれ、組織が複雑化し始めますが、最終的な決定権はオーナー社長にあることが多く、経営陣には一族が関与していることがよくあります。
大企業におけるオーナー企業の特徴
大企業となると、オーナー社長との距離が遠くなり、日常業務においてオーナーの影響を強く感じることは少なくなります。多くの場合、オーナー一族から社長が選ばれますが、役員には一族外の人材も含まれるため、同族経営とは言えなくなる場合もあります。例えば、トヨタ自動車では社長は豊田一族から出ていますが、他の役員は生え抜きの人材で構成されています。大企業では、社員を尊重した経営が求められ、コンプライアンスや外部監査が厳しくなるため、オーナーの私的な判断による経営は難しくなります。
オーナー企業への転職を考える際の心構えとデメリットの理解
オーナー企業には、特有の文化や経営スタイルがありますが、それが必ずしも悪いというわけではありません。むしろ、多くの企業がオーナー経営によって成功を収めているケースも多く見られます。
特に中小企業から中堅企業のオーナー企業へ転職を考える際は、一定の覚悟が必要です。ただし、これらの企業の中にも優れた経営を行っている企業が数多く存在します。入社前には、できるだけ事前のリサーチをしっかり行うことが重要です。
実際に入社してみて、状況を見極めることも大切です。必要に応じて、再度転職を検討する余裕を持っておくと良いでしょう。
また、企業には成長のピークとなる時期があります。長期間そのピークを維持できる企業は少なく、時にはカリスマ的な経営者でさえも時代の変化に対応しきれなくなることがあります。さらに、後継者問題も企業の将来に大きな影響を与えることが少なくありません。企業が最も活躍しているタイミングに働けることは、サラリーマンとしての大きな幸運と言えるでしょう。
転職活動は、特に40代以上になると長期戦になりやすく、数ヶ月かかることもあります。できるだけ早く行動を開始することが、成功への近道となります。